洒落にならない長めの怖い話※※※閲覧は自己責任でお願いします※※※

今回は、少し長めの怖い話をご紹介いたします。
ゆっくり暇な時にでも読んでみてください。
きっと震えあがることだと思います。

※閲覧は自己責任でお願いします。

それではご覧ください。

鏡の前の久実ちゃん

マスダくんは、小さい頃に経験した不思議な体験がいまだに忘れられないと私に話してくれた。

マスダくんは、小さい頃は、長野の田舎に住んでいたらしいが、あまり友達がおらず、小学校が終わった後はいつも一人で遊んでいたそうだ。家の周りには、民家もまばらにしかなく、山や川がすぐ近くにあったので、一人遊びしていても全く飽きることがなかったらしい。
迷子にならない程度に一人で色んなところを探検するのが日課だった。
小学校が夏休みに入ったある日、マスダくんは、いつも見慣れている川の脇を歩いて、どこまで辿って行けるか挑戦していた。だんだんと見慣れない景色になってきて、民家もほとんどなくなり不安になってきたが、まだ昼間だし度胸試しにと、どんどん先に進んでいった。

しばらく行くと、川の脇に小さなプレハブ小屋のようなものが建っていた。そのプレハブ小屋が相当昔からあるものであるのは、子供のマスダくんの目にも明らかだった。
まず何より目につくのが窓の曇りガラスがほとんど割れており、中が覗き込めることだ。それに玄関と思われる、重量感の感じないプラスチックのドアも半開き状態になっており、壁は埃と泥で黒ずんでいる。まさしく廃墟という感じだった。

マスダくんの探検は、度胸試しというのが一番の目的なので、そこに廃墟があるならば、入らない訳にはいかない。時計をみると、まだ、午後の3時で、日も明るい。かなり入るのを躊躇われたが、勇気を出して廃墟の中に入ることにした。

ドアについているステンレスのドアノブを回すと、予想通りの軽いドアで、ほとんど力を入れることなく簡単に開いた。中に入るとすぐ左手に簡単な洗面所があり、正面には5メートルほどの細い通路があった。通路の両サイドには扉がいくつかあり、恐らく部屋があるのだろう。
マスダくんは、靴を脱ごうかと思ったが、所々泥がついている汚い床を見て思い直し、土足のまま通路に上がり込んだ。
1つ目の扉を開けるとそこはトイレだった。見渡してみてもこれといって珍しいものもなく、ただ汚いだけだ。
トイレの扉を閉めて、奥の扉を開けようとしたが、ドアノブに手をかけたとき何となく、寒気がした。
「さっきのトイレの扉を開けるときは、こんな感じはしなかったのにな」
と、マスダくんは思った。

ゆっくりと扉を開けると、中を見て、マスダくんは思わず腰を抜かしてしまった。

女の子が座っていたのだ。姿見が1つ置いてあり、その姿見をに向かって体育座りをしている。マスダくんからは、姿見に向かう女の子の後ろ姿と、腰まで届きそうな長い黒髪が見えた。

「な、何してんの?こんなところで?」
マスダくんも、一人で廃墟に入ってきているので、人のことは言えないのだが、こんなところに女の子が一人で入ってくる理由なんて全く思いつかなかった。何でこんなところで、一人で鏡を覗いているの?

女の子は振り返って、マスダくんを見た。その子は、何とマスダくんと同じ小学校、同じクラスの久実ちゃんだった。
久実ちゃんもネクラな子で、休み時間もほとんど一人で机に座っているので、恐らくマスダくんと同じようにあまり友達はいないのだろう。

「久実ちゃん?こんなところで何してるの?」

そうマスダくんが聞くと、久実ちゃんはニッコリと可愛らしく笑って応えた。

「あら、マスダくん。マスダくんこそこんなところで何してるの?」
「僕は探検だよ。男だから、探検するということは将来のためにとても大事なことなんだ」
「あら、そうなの」
久実ちゃんは、またニッコリと笑った。
「私は、実はね、この鏡の向こうの人とお話をしてるの」

鏡の向こうの人?

マスダくんには何のことかさっぱりわからない。
「鏡の向こうの人って何?まさかお化けでもいるの?」
「いや、そんなじゃないわ。でも、この鏡の向こうには人がいるの。口で説明するのは難しいのよ。マスダくんも覗いてみるとわかると思うわ」

マスダくんも久実ちゃんの隣で体育座りをして、鏡(姿見)を覗いてみた。しばらく黙って鏡を見ていたが、鏡の中には、マスダくんと久実ちゃんが写っているだけで、特にその「鏡の向こうの人」というような人は見受けられない。どっかの隙間から誰かが覗いているとかそんな訳でも無さそうだ。

「久実ちゃん、あのさ」
「何?」
「特に、普通の鏡のような気がするんだけど、本当に誰か他の人が見えるの?」
「うーん」
久実ちゃんは少し黙ってから言った。
「多分、今日初めて見ても分からないのかも。私も何度か見てるうちに見えるようになったから」
「そうなんだ。っていうか、久実ちゃんはいつ頃からここに来るようになったの?」
「一週間くらい前かな。それから毎日来てるわ。来て、お話ししてるの。」
「そうなんだ」
マスダくんは、久実ちゃんの顔を横目で見てみた。ちょっとそれって異常だよね、と思った。

「マスダくん、明日も暇?」
久実ちゃんが言った。
「うん、特に遊ぶ友達もいないし暇だよ」
「じゃあ、明日もここに来てみて。私も来るから」
「うん、分かった。じゃあ、明日も来るよ」
時計をみると4時になっていた。
「久実ちゃんはまだ帰らないの?」
「マスダくんはもう帰りなよ。遅くなってきたし。私はもう少しここにいるわ」
「そう、分かった、あんまり遅くなると危ないと思うから気を付けてね」

そう言って、マスダくんは立ち上がり、久実ちゃんを置いて建物から出た。少し日も陰り初めている。

家に帰りながら、久実ちゃんのことを考えてみたが、あまりに学校の印象が薄くて、元々どんな子か全く分からない。不思議ちゃんなのかな。もともと。

次の日、マスダくんは、朝から川沿いを歩いて昼前にはその廃墟に着いていた。
鏡の部屋に行くと、もう久実ちゃんは昨日と同じように鏡の前に座っていた。
マスダくんは、久実ちゃんの隣に体育座りをしてまた鏡を覗いた。

「おはよう」
久実ちゃんが言った。
「おはよう」

マスダくんは、ふと、もしかして久実ちゃんは昨日家に帰っていないんじゃないかと思った。この薄暗い廃墟で真っ暗の中、鏡をずっと覗いている久実ちゃんの映像が頭に浮かんで、背筋に寒気が走った。

「久実ちゃんさ、昨日、家に帰ったよね?」
「そりゃ帰ったわよ。もちろん。当たり前じゃない」
「そうだよね、ごめんね」
ちらっと久実ちゃんの方を見ると、久実ちゃんの足に青痣がいくつもあるのに気づいた。よく見ると腕にもある。
「久実ちゃん、何か怪我したの?」
久実ちゃんは、少し黙ってから返事した。
「うん、ちょっとね」
それから、何か話し掛けにくい雰囲気になってしまったので、マスダくんは、鏡をじっと見ることにした。

すると、昨日は気づかなかったが、鏡の中に何か違和感を感じた。何だ?何かおかしいな。昨日と何か違う。

鏡の中には久実ちゃんがいて、僕が写っている・・・。ん、僕?

マスダくんは、鏡の中に自分ではない誰かが写っているのに気がついた。姿形も僕と全く同じだし、僕が右手を挙げれば向こうの人は左手を挙げる。まさしく僕なのだが、何故かそれがどうしても自分に思えなかった。全然違う他人のような気がする。

「久実ちゃん、おかしいよ。この鏡の中に誰かいる!」
「あっ、分かった?そうよ、それが、私が昨日から言っていた鏡の向こうの人よ」
久実ちゃんは、マスダくんの方を向いてニッコリと笑った。

マスダくんは、その笑顔が、なんとも言えず不気味だった。ここにこれ以上いてはいけない気がした。

慌てて立ち上がると、逃げるように建物から飛び出して、家に向かって走った。
あの異様な感覚が頭に張り付いていて、どうにも振り払えない。

家に着いた。
リビングに駆け込むと、お母さんはソファに寝転んでテレビを見ていた。
しかし、そこで、マスダくんは、凍りついた。そこに寝転んでいたのはお母さんではなかったからだ。姿形も、お帰りという声もまさしくお母さんとそっくりなのだが、明らかに違う。別人がマスダくんの家に上がり込んでいたのだ。すると、トイレから誰か出てきた。出てきたのは知らない男だ。お父さんに似ている。だが違う。別人だ。
僕の家は知らないうちに、他人に乗っ取られてしまっていた。お母さんとお父さんはどこにいった?

マスダくんは、何も言わず、自分の部屋に駆け込み、布団にくるまって震えた。カチカチと歯が鳴る。何か知らない世界に迷いこんでしまったようだ。
どうして、こんなことになった?一体どうして?
でも、原因はどう考えても明らかだった。あの鏡だ。廃墟の、久実ちゃんの、あの鏡が原因で間違いない。
あの鏡を覗いて、鏡の向こうに自分じゃない誰かが現れてからこうなったに違いない。

「どうしよう・・・」
マスダくんは、布団にくるまっているうちに、眠ってしまった。頭が現実逃避した。

目が覚めると、部屋は真っ暗だった。時計をみると夜の8時だ。午前中の出来事が夢だったように思える。

しかし、のそりと布団から出て、目をこすりながらリビングに行って愕然とした。そこには、知らない男と女がご飯を食べていた。
「あら、ずいぶん長いこと寝てたのね。早くご飯食べちゃいなさい」女が言った。

マスダくんは、何も返事せずに、懐中電灯を手に家を飛び出した。そして、廃墟に向かって走った。何としてもあの鏡のところに早く行かなくてはならない。
走りながら、マスダくんは不思議な気持ちになってきた。
あれ、僕は誰だっけか?
考えても分からなくなってきた。自分が誰だかわからない。マスダ ユウキという名前はもちろん覚えているのだが、それが自分だったかわからない。頭の中で、変な虫が脳みそをどんどん食い破って、脳がスカスカになっていっているような気がした。

30分ほど走って、なんとか、あのプレハブの廃墟にたどり着いた。
もう辺りは真っ暗だ。自分のライトの照らす範囲以外はまるで何も見えない。

廃墟に入って、鏡の部屋の扉のノブを握ったところで、嫌な予感がした。
もし、今この扉を開けて、久実ちゃんがいたらどうしよう。
もしそうだったら、そんな恐ろしいことはないなと思った。
しかし、幸いにも部屋に中には久実ちゃんはいなかった。
鏡には、懐中電灯を持った自分にそっくりの見知らぬ誰かが写っている。マスダくんは、部屋の脇に落ちていた花瓶を持ち上げて、鏡に投げつけた。
鏡はあっけなく割れた。不自然なくらい粉々になった。

マスダくんは、頭の中にすーっと風が吹くような感じがして、すっきりしてきた。自分が誰か考えてみた。
自分はマスダ ユウキだ。間違いない。
ほっとした。どうしようもないくらいの安堵感があった。

ふとみると、部屋の中に自分の持っている懐中電灯の光の円とは違う、別の光の円が見えた。
振り返ると、久実ちゃんが立っていた。
久実ちゃんは、感情のない目をして、マスダくんのことを見ていた。
マスダくんは、そんな久実ちゃんの目がすごく怖かった。
「ごめん、久実ちゃん。どうしようもなかったんだよ。でも、久実ちゃんも絶対、こんな鏡なんて無いほうがいいよ。絶対に危ないって」
久実ちゃんは黙っていたが、すっとポケットから手鏡を取り出した。
「大丈夫よ、マスダくん。鏡の向こうの人は、この手鏡の向こうにもいるから」
そう言うと、久実ちゃんはニコッと笑って、プレハブから出て行った。

その笑顔を見て、マスダくんは思った。
あー、久実ちゃんはきっと、引き返せないところまで行ってしまったんだな。
夏休みが開けたが、久実ちゃんは学校に来なかった。先生の話によるうと、夏休みの途中から家に帰ってこなくなったという。
久実ちゃんの親は、大して気にもとめず、警察に捜索願を出したのは、久実ちゃんが帰ってこなくなって3日経ってからで、今だに見つかっていないそうだ。

マスダくんは、今だにあの時の、自分が誰かわからなくなる嫌な感じが忘れられないと話していた。

 
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